マクロン大統領の誕生

今回のフランス大統領選挙ほど、フランスのみならず、世界の関心を集めたことは、久しくなかっただろう。伝統的な二大政党(共和党社会党)に属さない二人の候補によって争われた今回の選挙では、対立軸は「右か左か」という従来の構図ではなく、EU残留か離脱か、グローバル化か自国第一か、にあった。昨年のイギリスの国民投票でのEU離脱決定、そしてアメリカ第一を掲げるトランプの大統領就任と共鳴するかのように、世界を席巻するポピュリズム・反グローバル化の風がフランスをも揺るがしてきた。その風を巻き起こしてきたのが、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペンである。もしもルペン大統領が誕生し、イギリスに続いてフランスがEUを離脱することになれば、それはすなわちEUの実質的な終わりを意味する可能性が高い。だから選挙報道もルペンを中心に展開してきた。しかし、EUの残留・改革を唱えるマクロン大統領の誕生により、その懸念は当面払拭された。


けれどもルペンが敗れても、ルペンを台頭させた根本的な原因はまだ何も解消されていない。イギリスでEU離脱の決定をもたらし、アメリカでトランプを大統領に押し上げたのと同じ要因が、フランスにも根深く広がっている。すなわち、グローバル化によって、自分たちの慎ましい生活さえも脅威に晒されていると感じている労働者や農民たちの不満や不安である。


今回のマクロンの勝利は、彼の理念や政策に希望や共感を抱いたからというよりも、今なおそれなりに強い国民戦線への警戒心のおかげと言えるだろう。2002年の大統領選挙で、ルペンの父ジャン≂マリー・ルペンが敗れた時と比べて、警戒心は下がってきているとはいえ、まだ全面的に消滅してもいない。グローバル化への不満と不安が緩和されなければ、警戒心はさらに低下し、五年後の大統領選挙で、ふたたびポピュリズムの嵐が吹き荒れるだろう。


マクロンEUに残留してその改革、とくにユーロ圏経済の改革を提唱している。鍵はメルケル独首相を説得できるかどうか。マクロンが提案するユーロ共同債に彼女は「自分が生きている限りはない」と述べたという。マクロンとしては、ルペンをダシにメルケルを説得するしかないだろう。もし自分の提案を受け入れなければ、ポピュリズムがさらに台頭し、5年後の選挙でルペンが勝つだろう。そうなればユーロもEUも終わってしまう、と。