カーラ・ブルーニとは誰か

Yumat2008-01-06

サルコジ大統領に新しい恋人ができたというニュースを最初に知ったのは、日本の某サイトのニュース欄でした。フランスにいながら、フランスのニュースを日本経由で知るというのも、なかなかグローバル化の時代らしい情報伝達の仕方だと思いつつ、元スーパーモデルで歌手のカーラ・ブルーニというその新恋人については、大統領との関係が報道される前には何の知識もなく、された後にはなんとなくセシリア前夫人に似ているなと思い、いちおうどんな歌を歌っているのか聞いてみたけれどもまったくピンとこず、それ以降はほとんど興味の対象外となっていたのですが、じつはこの人を直接見たことがあるということを昨日知り、多少興味が出てきました。


去年の10月14日、パリ北東部にあるコンサート会場Zenithで、そのころ提案・可決されようとしていた新しい移民法――移民の家族呼び寄せのさい、家族関係の確認のためにDNA検査を導入するというもの――に反対するイベントが、風刺漫画週刊誌シャーリー・エブド、人権団体SOSラシスム、日刊紙リベラシオンの共同開催で行われ、そこに足を運んだわけです。そこにはこの法案に反対する各界の人々――有名どころではフランソワ・オランド(社会党書記長)、フランソワ・バイルー(MoDem)、ベルトラン・ドラノゥエ(パリ市長)、ミシェル・ピコリ(俳優)、イザベル・アジャーニ(女優)、ルノー(歌手)、ベルナール・アンリ・レヴィ(思想家)など――が集まり、スピーチをしたり、何人かのミュージシャンが演奏をしました。



会場の光景


スピーチをするイザベル・アジャーニ(彼女はアルジェリア人の父とドイツ人の母を持つ)


イベントも後半に差しかかったころ、一人の女性がギターを抱えてやってきて、歌を歌い始めました。そのときは、正直、やたら体の線が細く足が長い人だなと外見的な印象ばかりが残っていて、歌のほうは何だか印象に残りにくい歌だなと思ったことくらいしか記憶になく、そんな具合だから去年の12月にサルコジ大統領の恋愛が報道されて以降も、その記事内の写真の女性とZenithで歌を歌っていた女性とが一つに結びつくこともなく、昨日、雑誌を読んでいて初めて、その女性がカーラ・ブルーニその人だったということを知ったったわけです。ちなみに、セシリアとカーラが似ていると思った人は他にもけっこういたようで、「Figaro magazine」はご丁寧にも二人の顔を分析し、目の色、頬骨、唇と、似ているパーツを特定しています。


民法案を直接提出したのは移民省のオルトフー大臣ですが、もちろんこれはサルコジ大統領の考えに沿ったもの。会場でも、大統領を茶化したシャーリー・エブドの風刺漫画が巨大スクリーンで映し出され、ステージ上の演説者たちのなかにも、大統領への批判や当てこすりをする人もいました(下にリンクを貼ったビデオの、冒頭のミシェル・ピコリのスピーチはその例です。余談ですが、こんなに短い間にさらりと人を笑わすこの円熟の話芸はまさに名人芸。いとしこいしに通じるものを感じます)。一方、カーラ・ブルーニはこの移民法に反対するイベントに参加し、歌まで歌ったのです。


http://www.dailymotion.com/video/x37slq_touche-pas-a-mon-adn_news
反DNA法のイベントの映像。途中でカーラ・ブルーニが登場


しかも「ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」および「レクスプレス」の記事によれば、彼女は去年の秋、女性誌「Elle」のインタビューで、こんなふうに語っていたそうです。


"Je ne suis pas une politique, je n’ai pas forcément un esprit polémique, je signe rarement des pétitions, et je ne crie pas sur les toits pour qui je vote, mais, au sujet des tests ADN proposés ou imposés aux migrants qui veulent venir en France pour vivre en famille, mon indignation a été immédiate. Plus encore qu’indignée, je suis incrédule. L’amendement Mariani, même édulcoré, me semble d’une telle violence!"

「私は政治が好きなタイプの人間じゃないし、とくに人と言い争うのが好きなわけでもないんです。署名もめったにしないし、(選挙で)誰に投票するかを言いふらすようなこともしない。でも家族と一緒に住みたいってフランスに来る移民の人たちにDNAテストを勧める、っていうか押しつけるなんて、すごく腹が立つ。腹が立つというよりも、うさん臭い、って思います。マリアニ修正案(マリアニ議員が提出した移民法の修正案)で緩和されたとしても、この法案は暴力だと思う。」


ここまで言い切っていた人が、二ヵ月後には法案の元締めと一緒にディズニーランドに行くというのだから、なんだそりゃという感じです。まぁもちろん、二ヶ月間のうちに彼女の考えが変わることだってありえるし、考えが違ったままでも付き合うことはできますが。


サルコジ大統領とセシリア夫人との離婚が発表されたのは、コンサートから四日後の10月18日。新恋人との関係がその時点で始まっていたかどうかは、知る由もありません。