オランダ紀行(1) : プロテスタンティズムの名残り
オランダのアムステルダムに来て一週間以上経ちました。今回オランダに来たのは、この国の多文化主義の現状について調べるためです。それについてはまたいずれどこかで書くとして、今回は初めて訪れたこの国についての印象を書き留めておきたいと思います。
オランダは全体的にドイツとよく似ているようです。外見や言葉を始め、歩行者が(意外にも)赤信号で止まるところや、基本的に店や公共交通機関などが清潔なところもよく似ています。そのなかで、特にここで注目したいのは食事とファッション。
オランダの料理は素朴なものが多く、凝った調理法があまり見られません。メニューにザウアークラウトやシュニッツェルなどまったく同じ料理があったり、主食としてポテトを食べるところなど、ドイツ料理とまったく同じです。ファッションについても、率直に言って少し野暮ったい服を着ている人が多いところも、ドイツと似ています。フランスの隣国でありながら、この食やファッションへのこだわりのなさはどこから来ているのでしょうか?気候条件や民族文化などいろいろあるかもしれないけれども、最終的に行き着くところは宗教ではないかという気がします。
プロテスタンティズムが世俗内禁欲を説き、日常生活のなかでの質素・勤勉を重視したということは、M・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』でも述べられているところですが、食事やファッションへの執着の少なさは、プロテスタンティズムのエートスが現在においても続いていることの表れと見るべきなのかもしれません。逆にフランスやイタリアなどの料理がおいしい(ハズレも多いけど)のも、カトリックと関係があるような気がします。カトリックのどのような論理が食文化やファッション文化の発達を促したのかまでは、残念ながらわかりませんが。地元の人もよく来ているらしい郷土料理を売りにするレストランで、何かしまりのない味の煮込みスープを食べながら、なぜこの味付けをおかしいと思わないのだろうと疑問に思った後、宗教の影響と考えたら、得心がいったのでした。
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ただし、誤解を避けるために言っておくと、オランダにもおいしい料理はあります。特に旧植民地だったインドネシア料理を取り入れた結果、ある程度、メニューにも味にもヴァラエティが増したようです。インドネシア風の味付けをしたチキンの串刺しが堂々と「オランダの料理」として売られているのを見てどうかと思いましたが、やはり料理のまずいことで有名なイギリスでも、旧植民地であるインドの料理は、今やイギリス料理の一部と化しています。そう言えば、イギリスもプロテスタント(イギリス国教会)の国でした。
カトリックとプロテスタントの違いというのは、非キリスト教徒にはなかなか具体的に分かりにくいものですが、このような視覚や味覚レベルにいたるまでエートスが具現化されているとすれば、やはりその違いは小さくないのでしょう。