『アルジェの戦い』にまつわる二つのエピソード
今日は『アルジェの戦い』という映画を観ました。この映画を観たのは大学4年生のとき以来、ほぼ10年ぶりです。当時は卒論のテーマがアルジェリアのナショナリズムだったので、その参考に観たのでした。
1830年以来、フランスの植民地支配下にあったアルジェリアは、1954年から8年にわたる独立戦争をへて、独立を勝ち取りました。その戦いの過程をイタリア人監督ジッロ・ボンテコルヴォがドキュメンタリー・タッチで撮ったのがこの作品です。
当時は大学のすぐ近くに、こういう売れ筋ではなくても面白い映画や貴重な映画を置いているレンタル・ヴィデオ屋があったんですね(ずいぶんこの店でお世話になったわりには何という名前だったか忘れてしまったけど)。今はどこのレンタル・ビデオ屋に行っても、同じような品揃えばかり。この店も何年か前に潰れてしまい、後には大手チェーンの牛丼屋が入りました…
早く、フィルム・ライブラリーのような施設ができるか、インターネットで古今東西の映画をダウンロードできるようになればいいんですけど。
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この作品が公開されたのは1966年、その年のヴェネツィア映画祭で金獅子賞を取りました。映画祭での上映時、あまりにも“反仏的”な映画として、フランス代表団が全員抗議の意味をこめて退場し、ただ1人会場に残ったのがトリュフォーだった、というエピソードが残っています。
この映画にはもう一つエピソードがあって、2003年にペンタゴンがこの映画の上映会を行ったそうです。アルジェリアの抵抗運動(フランス軍から見ればテロリストのゲリラと見なされるわけですが)をイラクの抵抗運動と重ねて、この映画をイラク統治の教訓にしようとしたのでしょう。フランス軍は軍事的な戦闘には勝ったものの、政治においては最終的に負けました。軍事力によっては、けっして人心をつかむことができなかったからです。はたしてペンタゴン関係者はこの作品を観て何を読み取ったのでしょうか?
この映画にはアルジェリアの一般人が数多く参加していて、なかには独立戦争の闘士だった人も含まれています。けれども、この映画自体はとくに抵抗運動の側に立ってフランス植民地主義を糾弾するという感じのものではなく、暴力に満ち、緊張を強いられる独立戦争とその中での生活とをリアルに描くことに主眼が置かれているように見えます。だからベネツィア映画祭のときにフランス代表団がとった行動は、まだ戦後間もない時期だったがゆえの過剰反応のようにも思えます。
それにしても、この作品がペンタゴンによってイラク統治の参考として観られるというのはアイロニカルと言うほかありません。一つの作品は、ときに作者の“意図”を超えてさまざまに読まれうるーー『アルジェの戦い』にまつわる二つのエピソードは、このことを強烈に示しています。このアイロニーは、迫真の力を持った作品ゆえの運命なのかもしれません。