『文化社会学入門 テーマとツール』

Yumat2010-10-27

井上俊・長谷正人(編)『文化社会学入門 テーマとツール』(ミネルヴァ書房)が発刊されました。この中の「文化と権力」という項目について執筆しました。


文化社会学入門―テーマとツール

文化社会学入門―テーマとツール


「文化」と「権力」というとあまり接点がないように見えますが、両者の関係はたとえば文化のグローバル化の現状を眺めるとはっきりと見えてきます。たとえばJ・ナイの「ソフトパワー」論は、日本のアニメやマンがなどサブカルチャーを海外にいっそう普及させ、それをつうじて外交関係を促進することを理論的に裏付けるものとして一時期やたらともてはやされましたが、この議論はまさしく「文化」と「権力」との関係を、「後者」の側から直截に示したものと言えるでしょう。ソフトパワー論は、今ではかつてほど語られなくなったようにも見えるけれども、それにもとづく(と思われる)試み自体は、外務省の「アニメ大使」や「マンが大賞」などの形で続いています。


http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/h20/3/rls_0319e.html


他にも、どうしてアメリカの音楽は日本に入ってくるのにアメリカ進出を試みた日本の歌手は誰も−ピンクレディから松田聖子、ドリカム、宇多田ヒカルまで−アメリカで成功することが難しい(あるいは最近まで難しかった)のか、他方で東アジアでは日本の歌手が受け入れられけれども東アジアの歌手が日本で人気になることが少ない(あるいは最近まで少なかった)のはなぜなのか、韓流ブームやKポップの日本での浸透は何を意味しているのか−こういった問題を考えるとき、文化のグローバル化が、あらゆる方向に国境を越えて進むというよりも、しばしばある種の方向に沿って進んでいることが、そしてその方向を規定する「力」があることが、垣間見えてきます。それは「国家権力」というようなときの権力ではなく、グラムシの言う「ヘゲモニー」です。有り体にいえば、ヘゲモニーとしての力の強い国の文化が外国に浸透するということです。本書では、このヘゲモニー論をはじめとして、文化と権力というテーマについて考えるためのいくつかのツールについて、短く紹介しています。


ふり返れば、『冬ソナ』に始まる韓流ブームが起こったのは小泉政権時代でした。政治的に冷却状態にあった二国間関係に韓流ブームが一つの風穴を開けたように、現在の日中間の緊張関係にもかかわらず、日本で華流ブームが本格化し、中国のアイドルたち(Cポップ?)が日本のテレビに登場する日が来るのも遠くないのかもしれません。