脳を耕す
今日は院ゼミがありました。今はブルデューを輪読していて、最初に『資本主義のハビトゥス』をやり、今は『遺産相続者たち』、そして次に『実践感覚』の上巻を読む予定をしています。
資本主義のハビトゥス―アルジェリアの矛盾 (ブルデュー・ライブラリー)
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実はこちらに赴任して以来、院ゼミで輪読をしたのは今年が初めて。自分が院生の頃、文献の個別発表の授業はあったけど、輪読の授業って、ほとんど記憶にないんです。
だから自分のゼミでも、去年までは文献の個別発表を取り入れたことはあったけど、それ以外は院生の研究テーマ発表をしていました。でも何か考え方の軸になるものがなくて、論文に深まりが出ないなー、と思ってたんです、正直なところ。
そこで、理論的な考え方の基盤を育むために、輪読を取り入れました。え、そんなの学生が自分で勝手に読めばいいじゃん、て? いや、熊本に来るまでは、そう思ってましたよ、僕も。でも、それこそ『遺産相続者』の話だけど、地方大学には、「今社会学では○○がよく言及される重要人物だから押さえておこう」みたいな、知的好奇心とスノビズムの入り混じった院生文化はない(少なくとも、これまではなかった)のです。
だからブルデューを取り上げると決めたときは、ちょっと冒険でした。あのとっつきにくい文体に院生たちが拒絶反応を起こすのではないかとも思ったけど、あえて多少難解なものを読もうと決めました。せっかくみんなで読むときにあまり簡単に読めるような本ではつまらないし、それに難しい文章を読むということには、それなりに意義があると思うのです。
難解な理論はもちろんそれ自体で役に立つわけではない。でも、役に立つことを考えたりしたりするための、土壌を形成する意義はあると思うわけです。たとえば作物がよく育つためには地中によく根をはらなければならないし、根が伸びるためには土壌はよく耕されていなければならない。理論とは、いわば、「脳を耕す」ためのものだと思うのです。それ自体から実が成るものではないけれども、実が成るために必要な土壌を深く耕す営み。
だから難解な理論を読むということは、言葉と言葉とのさまざまな組み合わせの可能性、思考のさまざまな展開の可能性を追求するという意義があって、それが「脳を耕す」ということです。それがないと、土地はやせ細り、作物はしっかり育ちません。
とにかく、院生たちはわりと頑張ってブルデューを読んでます。それに、みんなで共通のテクストを読むということで、ディスカッションが続くようになりました。個別論文の発表だと、質疑応答が単発的になりがちだったけど、参加者全員が共通のテクストを読んでくることで、議論が継続するようになりました。
考えてみれば、僕自身、学部4年のときに1年間、ドクター+ポスドク時代に5年間、少人数で輪読をやったことがあって、それは今でも楽しい思い出です。とくに後者のほうでは、いろんな理論的文献を読んだけど、今の自分自身の知的基盤の少なからぬ部分はここで培われたものだと、つくづく思います。輪読っていうのもなかなかいいものだな、と思う今日この頃です。