サルコジ大統領の誕生

Yumat2007-05-08

フランスの大統領選挙が終わり、ニコラ・サルコジ第五共和制の第六代大統領になることが決定しました。


ド・ゴール以来、外交においてはアメリカから距離をとった自主独立外交、内政においては平等の理念の下、経済への積極的な介入を行うのがフランス保守政治の基本路線だったのにたいし、サルコジが目指しているのは新自由主義政策の導入により、フランスをグローバル経済に対応しうる強い国家にすること。そのた成立め、外交においてはイラク戦争以来こじれているアメリカとの関係を修復し、内政においては週35時間労働の見直しなど、自由競争原理を強化することを目指しています。


また、少なくとも日本で彼の一般的なイメージを定着させるうえで大きかったのは、やはり2005年の郊外暴動の際、暴動参加者を「ごろつき」「社会のくず」呼ばわりして火に油を注いだ出来事でしょう。これらの発言から窺えるように、移民にたいして規制強化を主張し、治安問題にたいしてはゼロトレランスのスタンスをとっています。こういったところから彼には強権的・強圧的とのイメージがあって、それはたしかに間違いではないのですが、それだけでは十分に理解できない面があるのもたしかです。


フランスはよく知られているとおり、政教分離をもっとも厳格に守っている国の一つで、2004年には公立学校での宗教シンボル(スカーフや十字架)を身に着けることを禁止する宗教シンボル法が制定されたくらいですが、しかしそのような厳格な政教分離をとるこの国で、モスク建設への公的支援を提案したのは他ならぬサルコジでした。


また、アメリカ流の多文化主義は、共和主義を国是とするこの国では評判がよくありません。共和主義とは、簡単に言えば、属性にとらわれない個人が「市民」として国家を構成する原理のことです。である以上。「アラブ人である」とか「ユダヤ教徒である」といった民族的・宗教的属性を社会参加の前提とするわけにはいかないため、多文化主義と根本的に相反するわけです。しかし、そのような共和主義に立脚するこの国で、多文化主義の典型的な政策の一つであるアファーマティヴ・アクションの導入を提唱したのも、他ならぬサルコジでした。


つまり、ある面では移民や民族的・宗教的少数者にたいする“寛容”な政策も行っているわけです。もちろんそれには、政府と移民たちのあいだをつなぐ“パイプ役”を育成し、移民の統治をより円滑にするためという狙いがあるわけですが、「強権でもって弱者を抑圧し、他者を排除する」というイメージだけでは捉えられないこともたしかです。


経済は自由競争、移民は規制強化、治安はゼロトレランス、マイノリティは多文化主義、というのが、サルコジの基本的なスタンスだと言えるでしょう(それ以外にもありますが)。


こうして見ると、いかに彼が従来のフランス政治の枠を超え、アメリカのそれに近いところに立っているかがわかります。しかし、彼が「親米派」と言えるのかどうか、まだわかりません。サルコジの最大の目的はフランスを強くすること、そして現在の世界各国のなかで強いのはアメリカ、だからそのアメリカでうまくいっているやり方を取り入れるという、実に単純明快な論理にもとづいて行動しているように見えます。だからそれは「親米」というのとは少し違うようにも思います。


保守政党が、保守政党でありながらある程度平等に配慮した政治を行ったという点では、戦後のフランスと日本とは似ています。そして90年代以降のグローバル化の顕在化にともない、新自由主義路線への転換を図った点も同じです。フランスにおけるサルコジ大統領は、日本で言えば小泉元首相の位置に当たるでしょう。しかし、新自由主義経済が引き起こす問題(格差の拡大等)にたいして、フランスでは野党(社会党)がオルタナティヴを提示し、それが半数近くの支持を得るのにたいし、日本では与党内の内閣交代によって微修正されるという点は大きく違うところです。


フランスでも少なからぬ人が、二大政党制はすでにかなり形骸化・硬直化していると感じており、だからこそ今回の中道勢力の台頭が(ついでに言えば前回の国民戦線の台頭も)ありました。イギリスでもブレア政権が右でも左でもない「第三の道」を提唱したし、ドイツでも右のキリスト教民主同盟と左の社会民主党とが連立政権を組むという事態が生じています。ヨーロッパの二大政党制は過渡期にあると言えます。と同時に、日本と比べた場合、二大政党制はまだまだ根強く残っているとも言えます。今回の大統領選挙をつうじて、この辺りのことについて考えさせられたのですが、それについてはまたいずれ書きたいと思います。